考え方がいくつかあります。以下、期間の長い順に簡単にご紹介します。

1)約120年とする考え

これは、創世記6章3節を根拠にしていますが、ここでは簡単に記述するに留めます。

「そこで、主は、「わたしの霊は、永久には人のうちにはとどまらないであろう。それは人が肉にすぎないからだ。それで人の齢は、百二十年にしよう。」と仰せられた。」(創世記6章3節)

ノアの祖父メトシェラは(恐らく、父レメク、ノアも一緒に)、全世界を覆う洪水を起こし、すべてのものを滅ぼすという預言を受けました。この「百二十年」が具体的に何を意味しているかは後に考えますが、いずれにしても洪水までの年数は120年であるという意味が含まれていると考えられます。そして、この預言の後、すぐに箱船建造命令(創6:13-21)が与えられたとすると、直ちに建造に着手したはずであるという理解に立っています。
そうとすれば、この120年は洪水までの期間であると同時に、箱船建造の期間でもあると解釈することになります。

2)約100年とする考え

1)と同様に、裁きまでの期間は120年と解釈しますが、ノアに箱船建造命令(創6:13 -21)が与えられたのは、3人の息子が生まれた後(創5:32)だと考えます。

「ノアが五百歳になったとき、ノアはセム、ハム、ヤペテを生んだ。」(創世記5章32節)

息子たち3人は三つ子ではなかったと考えられていますので、一括してこのように記述してあるに過ぎないのかも知れません(但し、三つ子であっても長子、次子、末子の区別は付けるようですから、三つ子だった可能性は否定されません。エサウとヤコブは双子でしたが、エサウが長男とされました)。さて、この子どもたちが生まれたのはノアが五百歳の時(創5:32)、洪水が起こされたのは六百歳の時(創7:6)ですから、この間、百年経っています。
記述の流れから考えると裁きの預言は、当時最年長者のメトシェラに(恐らくレメクと、ノアも共に)与えられました。それが、洪水の120年前です。

「これはノアの歴史である。ノアは、正しい人であって、その時代にあっても、全き人であった。ノアは神とともに歩んだ。ノアは三人の息子、セム、ハム、ヤペテを生んだ。」(創世記6章9節、10節)

noah_3_29節からノアの歴史の記述が始まり、アダムの歴史(創5:1)の文脈の中で書かれた三人の息子の誕生(創5:32)が、改めて10節でノアの歴史として記載されています。これはノアが五百歳の時であることが分かっています。そして、箱船建造命令について、主はノアを名指しで預言なさいました(創6:13)。正しい人であるノアは、直ちに建造に着手したはずですから、箱船建造期間は約100年ということになります。

CRJはこの考えに立っています。

3)約70年以下とする考え

120年に関する解釈及びノアの3人の息子の生まれた時期については2)と同じ考えに立っています。しかし、箱船建造命令は、ノアが3人の息子を授かった直後ではなく、ノアの3人の息子が結婚した後と考えます。

「あなたは、あなたの息子たち、あなたの妻、それにあなたの息子たちの妻といっしょに箱船にはいりなさい。」(創世記6章18節)

箱船建造命令を主が出された記述に続けて、息子たちの妻について主が言及しておられるので、息子たちは既に結婚して妻がいたであろうと考えるからです。そして、結婚したのは30歳前後と仮定すると、100年から30年を差し引いて箱船建造に使われた期間は約70年と推定できると考えます。箱船建造命令や建造開始は早くても洪水70年前だろうという考え方です。
アンサーズ・イン・ジェネシス(AiG)はこの考え方です。

4)約20年という考え

聖書に記述されているサイズの箱船を建造するために必要な木材を集め、組み立てるために必要な労働時間を試算している人がいます。

***もっと知りたい方へ***
(下記は詳細な内容です)

1)創世記6章3節の考察

6章3節の考察をするために、翻訳を幾つか比較しようと思います。原語がかなり難解であるらしく、それぞれ微妙に意味が異なります。

創世記6章3節cの翻訳間の比較

新改訳それで人の齢は、百二十年にしよう。
新共同訳こうして、人の一生は百二十年となった。
口語訳しかし、彼の年は百二十年であろう。
フランシスコ会訳人の日数は百二十年にすぎない。
創造主訳いつまでもこのままにしておかない、後百二十年待とう。
NKJVyet his days shall be one hundred and twenty years.(人の日数)
NIVhis days will be a hundred and twenty years.(人の日数)
TEVFrom now on they will live no longer than 120 years.(残された時間は120年以下)

原語の「ヨーム」が「日、年、期間」を意味するとの主張から、様々な解釈が飛び交っています。しかし、日本語の「日」も全く同様に、一日、二日という「日」を意味したり、不定期な長期間を意味したり、漠然とした時期を表したりするのは全く同じです。そしてこのことは、英語の「day, days」も変わりがありません。

新改訳「齢(新改訳)」と新共同訳「一生(新共同訳)」では、人間の寿命を120年とするとおっしゃったのだとして解釈されています。すなわち、洪水を起こす時期とは一応無関係なこととして、一般的な裁きを仰せになったとして翻訳されています。しかし、預言があった時に生きていたメトシェラ、レメク、ノアはこの預言後も生き延びてそれぞれ、969年、777年、950年の寿命を全うしており、ノアは洪水後350年生きているのです。
そして、時代が下がって、後のアブラハムでさえも175歳の長寿を祝福されています。確かに、ノアの洪水以降、代々、人の寿命は短くなりますが、それは120歳にとどまることなく、様々な変遷を辿りつつも、今日の日本の平均寿命は世界最長で約80歳です。また、詩篇90篇10節には、「私たちの齢は七十年。健やかであっても八十年。」と記されています。

ですから、創世記6:3が寿命をさして120年と言っていると解釈し、それがあまり正確でないことを論議するよりも、裁きの日まで120年と解釈するほうが聖書の他の記述をも含めて裏付けられていると考えられます。預言は必ず成就するものですから、主の預言はその言葉の通り受け容れる確かな信仰が要求されていると考えます。

口語訳「年(口語訳)」、フランシスコ会訳「日数」、NKJVおよびNIV「his days、日数 (NKJV, NIV)」は意味が明確ではないように思われる一面があり、寿命でないとは言い難いかも知れませんが、それよりは洪水までの時間という理解をすると文章的まとまりを持った翻訳文になるようです。すなわち、裁きの日までの日数が120年であるということを表現していると読むのが素直な理解であると考えられます。なお、フランシスコ会訳では注釈が付いていて、「一般人類の生命の息は百二十年後の洪水によって断たれるであろうという神の宣告、悔い改めの期間」と書かれています。

一方、創造主訳とTEVは「残された時間」と積極的に意味を明確にして、この時から裁きの日、洪水までの期間が120年であると明確に表現しています。人の寿命については言及していません。

創世記6章前半を見ると、その時代の人々は神を畏れる心を失い、地上には悪が満ち溢れていたことが記されています。5章に書かれているノアの父祖たちは、主を畏れる心を持った人たちだったのですが、聖霊が彼らを通して語られた言葉を聞いても悔い改める人が全く起こされないほどに、当時の人々は堕落してしまっていました。しかし、主は憐れみ深く、突然に裁きを下されるのではなく、人々に悔い改めをする期間として120年を設けられたのです。
そして、恐らく、その時点で生存していた最年長の父祖メトシェラに与えられたものと考えられます。洪水120年前の時点で、生きていた父祖たちは、メトシェラ(ヘブル語で「彼が死ぬときにそれが落ちてくる」の意)、ノアの父レメク、そしてノアに語り、人々を悔い改めに導くようにと諭されたのでしょう。

「また、昔の世界を赦さず、義を宣べ伝えたノアたち八人の者を保護し、不敬虔な世界に洪水を起こされました。」(ペテロの手紙第二 2章5節)

2)箱船建造に携わった人々

具体的には記述されていませんので、実はノア以外には分かりません。
しかしながら、信仰の人であった祖父メトシェラや父レメクは、箱船建造預言も共に聞いていたでしょうし、労苦を共にしなかったとは考えられません。途中でレメクは死にますが、メトシェラが箱船の完成を見たことは間違いないでしょう。何故なら、洪水の直前に死んでいるのですから。

箱船に入ったノア以外の7人は、当然一緒に働いたことでしょう。ノア一人の信仰に他の人々が便乗して救いを受けたと考えるのは納得のいかない解釈です。さて、メトシェラの家族、レメクの家族、ノアの家族は他に全くいなかったのでしょうか? 世界の始まりの時に、カインがアベルを殺した後も、この世に生きているのはアダムとエバとカインの3人だけの静まりかえった世界であるかの如き錯覚をする人々が大勢います。そのために、カインの妻を見つけることができなかったのです。しかし、実際には、既に非常に大勢のアダムの子孫が生きていたのです。

同様に、この洪水の時にも、名前の書かれている6名、メトシェラ、レメク、ノアと息子たちと、名前は書かれていないけれども存在が書かれている妻たち4人以外にも、存在が記述されていなくても、彼らの家族は大勢いたことでしょう。この人々が箱船建造にどのように関わったのかについて、聖書はいっさい語っていませんので分かりません。しかし、大勢が箱船建造を手伝ったかも知れませんし、なにがしかの関わりを持ったと考えるのが常識的でしょう。

当時の技術力がどういうレベルであったのかは分かりませんが、主が命じられた通りに建造する技術を持っていたことは間違いありません。荒れ狂う大洪水の荒浪の中を無事にノアたちや、動物たちを無事に守り通すことの出来るようにこの巨大な箱船を頑丈に造り上げました。その長い、長い年月、70年であったと仮にしても、余りにも長い年月です。洪水など知らない人々が、実態を思いうかべることの出来ない「幽霊」の影に怯えて巨大な「箱」を建造する重労働に人々は耐えかねたことでしょう。初めは協力した人々も、「我慢の限界を超えた!」と、次々と落伍してしまったことでしょう。

主の命令にただひたすらに従い、他の人々には愚かに見える従順の限りを尽くして、ノアたちは箱船を完成させたのです。主に従ったからこそ、大洪水の中を1年以上も、壊れもせずひっくり返りもせず、ビクともしないで人々と動物たちを保護し続けることが出来たのです。

初めからノアの家族を罵った人々は別として、初めは協力した人々であっても、この試練を耐えかねた人々は、箱船の救いに預かることは出来ませんでした。そして、実に大勢の人々が洪水の起こった場所(地球上のどこであるかは不明です。お間違いなく)以外にも、地球上の広い範囲で生きていて、堕落の極みに達して、水で滅ぼされてしまいました。

「洪水前の日々は、ノアが箱舟に入るその日まで、人々は、飲んだり、食べたり、めとったり、とついだりしていました。そして、洪水が来てすべての物をさらってしまうまで、彼らはわからなかったのです。」(マタイの福音書24章38, 39節)

3) ノアの3人の息子の年齢について

ここで箱船建造の作業の少なくとも一部には関わったであろう、ノアの3人の息子たちについて簡単に触れておきます。

創世記11章10節
これはセムの歴史である。セムは百歳のとき、すなわち大洪水の二年後にアルパクシャデを生んだ。

ノアからアブラハムの家系につながる直系の後継者セムは、洪水の2年後に100歳になっていることから、洪水の98年前、すなわち、ノアが502歳の時に生まれたことが分かります。すなわち、創5:32はおよその年代であると先に書いた通りで、この2年後であったことが分かります。

さて、ヤペテとセムとの長幼の順(創10:21)は、翻訳によって異なります。

創世記 10章21節

新改訳セムはエベルのすべての子孫の先祖であって、ヤペテの兄であった。
新共同訳セムにもまた子供が生まれた。ヤフェトの兄であった。
口語訳セムは・・・・・ヤペテの兄であった。
フランシスコ会訳セムは・・・・・ヤフェトの兄であった。
創造主訳And ・・also to Shem, the brother of Japheth the elder.
NKJV・・to Shem, whose older brother was {[21] Or } Japheth;
NIVShem, the older brother of Japheth, ・・・
TEVShem, the older brother of Japheth, ・・・

日本語訳では、いずれもセムが長兄、ヤペテが次兄という翻訳になっています。英語訳は、NKJVでは、逆にヤペテが長兄となっています。一方、NIVは一応ヤペテを長兄としていながら、セムが長兄という案も並べて挙げています。ノアが五百歳の時に息子が生まれたという記述(5:32)を重視すると、その年にヤペテが生まれ、ノアが502歳でセムが生まれ、洪水後2年目にセムは百歳になります。この時、ヤペテは102歳ということになります。この計算はこれでつじつまが合いますが、言語的にはどうなのでしょうか? 息子たちの名前を挙げるのに、いつも「セム、ハム、ヤペテ」という順番に書かれているので、セムが長子、ハムが次子、ヤペテが末子と考えがちではあるのですが、これは、セムが後継者であるために最初に記載されているのかも知れません。直系の後継者セムが長子でなくてもいいので、ヤペテを長子として理解しても、聖書理解に大きな混乱はないでしょう。

また、ハムは9:24に末子として書かれています。ハムがいつ生まれたかははっきりと記されていません。

「ノアが酔いからさめ、末の息子が自分にしたことを知って、」(創世記9章24節)

4)箱船建造期間を約20年とする考え

それを次のようにして造りなさい。箱舟の長さは三百キュビト。その幅は五十キュビト。その高さは三十キュビト。(創世記6章15節)

1キュビトは約46cmとして換算すると、船の大きさは長さ137m、幅23m、高さ13.7mで、非常に大きな建造物です。一人の大人が週6日間働いて、この大きな船を建造するために必要な木材を集め、建造したとすると、約84年間で完成出来ると試算しています。2人なら42年間、4人ならば21年間という単純計算です。船の建造に要するその他諸々の工程にこの4倍の時間を考えなければならないでしょうが、それには使用人やその他、何十人もの人手があったと考えても良いだろうと思われますから、約20年で完成したのではないかと考えているのです。

この説は、箱船のサイズに関しては確かに聖書に立っているのですが、後は人間の知識・知恵と、そしてよく分からない、余り科学的でさえない大きな仮説を導入して算出しているに過ぎないと思われます。